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東京地方裁判所 平成10年(ワ)3918号 判決

原告 A <外三名>

右四名訴訟代理人弁護士 本村俊学

被告 株式会社霞台カントリークラブ

右代表者代表取締役 井上眞帆子

右訴訟代理人弁護士 柏木秀夫

同 松吉威夫

同 鈴木邦人

同 関谷巌

同 宗像雄

同 加々美博久

同 長島良成

同 野崎晃

同 望月真

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告Aに対し、五〇〇〇万円、原告C及び原告Dに対し、それぞれ二五〇〇万円、原告Eに対し、三〇〇万円並びにこれらに対する平成九年九月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、被告経営のゴルフ場でプレー中落雷により死亡した中学校教員の相続人及び遺族が被告に対し、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償を請求する事案である。

二  当事者の主張

(請求原因)

1 当事者関係

原告A(以下「原告A」という。)は、B(以下「亡B」という。)の妻であり、原告C(以下「原告C」という。)、原告D(以下「原告D」という。)は、亡Bと原告Aの子であり、原告E(以下「原告E」という。)は、亡Bの母である。

被告は、霞台カントリークラブ(以下「本件ゴルフ場」という。)を経営する株式会社である。

2 事故の発生

(一) 日時 平成九年九月八日午後一時四〇分ころ

(二) 場所 茨城県稲敷郡桜川村四箇三四〇五所在の本件ゴルフ場筑波コース(以下、何番ホールと表示するとき特に表示しない限りは、筑波コースを指す。)における六番ホールから七番ホールに向かう途中の松林内

(三) 事故の態様 亡Bが、同伴プレーヤーである亡香取良昭(以下「亡香取」という。)、堀江廣一(以下「堀江」という。)、一鍬田信吉(以下「一鍬田」という。)とともに豪雨を避けるため、右松林内に入り、高さ約一五メートル、直径約三五センチメートルの松の木(以下「本件松の木」という。)の真下でクラブハウスからの迎えの車を待っていたところ、本件松の木に雷が直撃し、その側撃により亡香取及び近くにいたキャディー岸芳枝(以下「亡岸」という。)と同時に感電死し、堀江及び一鍬田が受傷した。(以下、この事故を「本件落雷事故」という。)

3 被告の責任

(一) 不法行為責任

(1)  民法七〇九条の責任

ゴルフ場を経営する者は、施設利用契約を締結した施設利用者に対し、利用者の生命・身体を危険から保護すべき注意義務、具体的には、落雷の危険を予測したら利用者を適切に避難誘導すべき注意義務を負うところ、被告は、平成九年九月八日(以下、特に年月日を記載しないときは、右同日を指す。)午後一時二五分ころの落雷の前に、プレー中止の放送をするほか、キャディー亡岸をして亡Bらを避難誘導すべき注意義務を負うのに、右義務に違反した過失により本件落雷事故を招いた。

(2)  民法七一五条の責任

被告は、亡岸を本件ゴルフ場でのキャディー業務に従事させていたが、亡岸としては、午後一時二五分ころの落雷の前に、同行するプレーヤーを適切に避難誘導してその安全を確保すべき注意義務を負うのに、右義務に違反した過失により本件落雷事故を招いた。

(3)  民法七一七条の責任

本件ゴルフ場は、三六ホール(総面積約三〇万坪)と広大であるから、適切な場所に避雷針、待避所を設置すべきであるのに、本件落雷事故現場付近には、六番ティーグラウンド手前に売店を設置するのみで、七番ティーグラウンド付近に避難設備を設置していなかったが、これは設置の瑕疵に当たる。

(二) 債務不履行責任(民法四一五条)

被告は、プレーヤーに対し、ゴルフ場施設利用契約に基づく信義則上の付随義務として、その生命・身体を危険から保護すべき安全配慮義務を負い、具体的には午後一時二五分ころの落雷の前に、気象台ないしは民間会社から雷情報を得て、プレー中止の放送をするほか、キャディー亡岸をして、あるいは、履行補助者であるキャディー亡岸が同行するプレーヤーを適切に避難誘導してその安全を確保すべき安全配慮義務を負うところ、右義務に違反した過失により本件落雷事故を招いた。

4 損害

(一) 亡Bの逸失利益

亡Bは、死亡当時三一歳であり、生存していれば、満六七歳までの三六年間を稼動し得たところ、大学を卒業しているので、平成八年度の賃金センサス男子大卒平均賃金六八〇万九六〇〇円を基礎に右期間を通じて控除すべき生活費を三割として算定すれば、逸失利益は七八八〇万円(千円以下切捨)となる。

(二) 退職金差額

亡Bは、二六二万四五九六円の退職金を受領したが、生存していれば六〇歳まで勤務し得たから、最低でも二六六三万四九六〇円(二九年後の給与四二万四八〇〇円に係数六二・七を乗じた額)の現在価額四三七万八七八七円の退職金を受領したはずであり、その差額一七五万円(千円以下切捨)が損害となる。

(三) 相続

原告Aは亡Bの妻として、右合計金額の二分の一である四〇二七万五〇〇〇円を、原告C及び原告Dは亡Bの子として、各四分の一である二〇一三万七五〇〇円ずつを相続した。

(四) 葬儀費用

原告Aは葬儀費用一二〇万円を支出した。

(五) 慰謝料

亡Bの死亡により原告A、原告C、原告D及び原告Eが受けた精神的苦痛は甚大であり、これを慰籍するには、妻である原告Aにつき一五〇〇万円、子である原告C及び原告Dにつき各七五〇万円、及び母である原告Eにつき三〇〇万円が相当である。

(六) 弁護士費用

原告Aにつき四〇〇万円、原告C及び原告Dにつき各二〇〇万円を要する。

5 結論

よって、原告らは、被告に対し、原告Aにつき損害金六〇四七万五〇〇〇円の内金五〇〇〇万円、原告C及び原告Dにつき損害金各二九六三万七五〇〇円の内金二五〇〇万円、原告Eにつき損害金三〇〇万円並びにこれらに対する本件落雷事故発生日である平成九年九月八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する認否)

1 請求原因1のうち、被告が本件ゴルフ場を経営していることは認め、その余は知らない。

2 同2は認める。

3 同3の(一)(1) (2) 、(二)は否認する。同(一)(3) のうち、本件ゴルフ場のホール数が三六ホールあること、総面積が約三〇万坪であること、六番ティーグラウンド手前に売店が設置されていることは認め、その余は否認する。本件落雷事故は、不意の天災によるものであり、不可抗力である。

4 同4は知らない。

(過失相殺の抗弁)

ゴルフは広大な敷地の中、屋外で行われるスポーツであり、また、落雷事故の危険性については一般通常人にとっても公知の事実である以上、プレーヤーは、プレー中に自ら落雷の可能性及びそれに伴う落雷事故の危険性を予見し、プレーを続行するか避難すべきかを判断すべきであって、プレーヤー自身の責任によって落雷事故を避けるべきであるところ、亡Bは、強い風雨及び雷鳴から落雷事故の危険性を予見し、六番ティーグラウンド付近の売店、避難ベンチ、六番グリーン先の隧道に避難すべきであり、またこれが可能であったにもかかわらず、右避難行動を怠り、自ら落雷の可能性の高い本件松の木の真下に移動したのであるから、本件落雷事故は亡Bの右過失により発生したのである。

(抗弁に対する認否)

否認する。

第三当裁判所の判断

一  請求原因1のうち、被告が本件ゴルフ場を経営していること、同2、同3の(一)(3) のうち、本件ゴルフ場のホール数が三六ホールであり、総面積が約三〇万坪であること、六番ティーグラウンド手前に売店が設置されていることについては当事者間に争いがない。

二  右争いのない事実、証拠(甲一、二、四ないし六、一一、一四、一七、一八、乙二、三、四、六の1、2、九ないし一一、検証の結果、証人堀江廣一、同佐伯真一)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

1  当事者関係

亡B(昭和四〇年九月一七日生)は、平成元年三月に相模工業大学を卒業後、千葉県内の公立中学校の教員(地方公務員)となり、本件落雷事故当時は、佐原市立新島中学校教諭をしていた。亡Bは、前日が同中学校の運動会であったので、その振替休日の平成九年九月八日午後一時四〇分ころ、本件ゴルフ場でプレー中に落雷に遭い、死亡した。原告Aは亡Bの妻、原告C及び原告Dはいずれも亡Bの子であり、原告Eは亡Bの母である。

被告は、本件ゴルフ場を経営する株式会社であり、本件ゴルフ場は名門ゴルフコースの一つとして名高い。本件ゴルフ場は、筑波コースと霞コース各一八ホールの合計三六ホールからなっている。

2  本件ゴルフ場及び事故現場の状況

本件ゴルフ場には、雷の際の避難場所として、クラブハウス、売店(六か所)、避難ベンチがある。そして、本件落雷事故が発生したのは、六番ホールのグリーン(本件落雷事故現場から約五四メートル)と七番ティーグラウンド(本件落雷事故現場から約二九メートル)との間を結ぶカート道から約一・五メートル入った松林内である。右六番ホールは、レギュラーティーグラウンドから一六〇ヤードほどのショートホールであり、右ホールのティーグラウンド後方約八〇メートルの場所に売店があり、右売店には、緊急時にクラブハウスからの放送が流れるスピーカーが設置されている。右売店から本件落雷事故現場までは約二五八メートルであり、同事故現場から約一二〇メートル先に霞コースの一二番ホールから一三番ホールに至る隧道がある。右六番ホールのティーグラウンド横には避難ベンチがある。

3  当日の天候状態等

平成九年九月八日、本件ゴルフ場の朝は日が差しており、雨が降る気配はなかったが、午前一〇時ころから曇り始め、午前一一時ころには完全な曇り空となって、遠くで雷鳴が聞かれるようになり、午前一一時二五分、本件ゴルフ場のある茨城県南部に大雨洪水雷注意報が発令された。そして、午後〇時ころから本件ゴルフ場に雨が降り始めたが、この時点の雨はさして強い降りではなく、雨具がなくともプレーは可能な状態であった。この時点においても、遠くで雷鳴が聞こえていた。

その後、遠方で稲光が見え、急に空が暗くなり、激しい雨となった。そして、午後一時三五分過ぎころ、急に大きな雷鳴とともに、近くに雷が落ちた(以下、この落雷を「一回目の落雷」という。)。その後、再び近くで落雷(以下「二回目の落雷」という。)があり、更に本件松の木に落雷があった(以下、この落雷を「三回目の落雷」あるいは「本件落雷」という。)。

ところで、頭上に雷雲が広がり、雷鳴や稲光が識別できるときは既に危険な状況にあるといわれている。しかも、一度落雷があると一分間は充電期間となるのでその間は落雷はないともいわれている。しかし、雷は不規則に落ちる上、雷雲の成長の程度によっても落雷状況は異なるので、落雷地点を局地的に予測するのは極めて困難であるといわれている。また、雷はゴルフプレーにおける危険の一つとして公知の事実であるが、その危険性は他の空地にいるときに比べ、より高いというものではないともいわれている。

4  被告の雷対策と当日の対応

本件ゴルフ場においては、平均して年に二回ほど夏場に落雷の危険による避難勧告が出されることがあるが、昭和四五年六月の開場以来、実際に本件ゴルフ場に落雷があったことはなかった。そして、龍ケ崎方面に発生した雷雲はしばしば本件ゴルフ場に移動してくるが、霞ヶ浦北方に発生した雷雲が本件ゴルフ場に移動してくることはまずないものの、仮に移動してきた場合には、大きな雷が落ちる場合であることが経験的に知られている。

被告は、平素から、キャディーに対して、落雷の都度、全員を招集してミーティングを開き、退避指示が出た場合には、速やかに避難場所に避難すること、プレーヤーが避難しないときは、キャディーだけで避難してもかまわないことなどを指導していた。なお、キャディーがプレーヤーを避難誘導するためのマニュアル類は存在していない。

被告は、プレーヤーにプレーカードとともにゴルフ場利用約款を周知させているが、同約款一〇条六項には、「落雷の危険が予想され、退避指示が出された場合は、プレーを中断して避難所等、安全と思われる場所に退避して下さい。」との記載があり、退避指示方法として支配人による放送を想定していた。

本件ゴルフ場の支配人佐伯真一(以下「佐伯」という。)は、午前一一時過ぎ、個人的に従来から雷情報収集の協力を依頼していた電力会社に対して、雷情報を照会したところ、龍ケ崎方面で雷雲が発生し、筑波山方面に移動中で本件ゴルフ場に雷雲が接近しているということはないとの情報を入手した。その後、佐伯は、雷の接近に注意し、一二時ころには一五分間位クラブハウスから外へ出て天気を気遣っていたが、急に辺りが暗くなり、激しい雨となった午後一時三〇分少し前ころ、再度右電力会社に雷情報を照会したところ、下館市及び土浦市北方方面に午前中とは別の雷雲が発生中との情報を得、そこで発生した雷雲が本件ゴルフ場に移動してくることはまずないが、仮に移動してきた場合には大きな落雷があることを心配し、しかも、雨がますます激しくなるので雷の接近の危険を感じ、プレーの中止勧告及び退避指示を出そうとした矢先の午後一時三五分ころ急に近くで一回目の落雷が発生し、午後一時三七分、クラブハウスは停電となった。しかし、直ぐに復旧したため、佐伯は、直ちにプレーヤーに対し、プレー中止勧告及び退避指示の放送(以下「本件放送」という。)を行うとともに、迎えの車を派遣して、プレーヤーの避難誘導作業に着手したところ、近くで二回目の落雷が発生した。そして、被告の従業員が避難誘導作業をしている最中に三回目の落雷が発生し、その後、午後一時五二分、被告の従業員が倒れている亡Bらを発見し、救急車を要請した。

なお、本件ゴルフ場から一キロほど離れたサクラゴルフクラブにおいては、当日避難勧告放送等何らの処置がとられることはなく、プレーヤーが各自避難を行った。

5  亡Bらプレーヤーの行動

亡Bは、新島中学校の教師仲間七名で、代休を利用して本件ゴルフ場でコンペを行うこととし、二グループに分かれて、午前八時五二分ころ、プレーを開始した。亡Bは、ビジターとして、メンバーの香取、ビジターの堀江及び同一鍬田とともに、パーティー(以下「本件パーティー」という。)を組んだ。本件パーティーのキャディ-は、被告の従業員の亡岸であった。続いて午前八時五九分ころには同僚三名の後続のパーティー(以下「本件後続のパーティー」という。)がキャディーの脇屋光子(以下「脇屋」という。)を伴ってプレーを開始した。そして、午前中のプレーを終え、昼食をとった。

午前一一時一五分ころ、亡Bらの直前のパーティー(以下「本件直前のパーティー」という。)がキャディーの高須敏子(以下「高須」という。)を伴って午後のラウンドを開始した。通常後続のパーティーは七分間隔のスタートであるが、当日は月曜日のため比較的プレーヤーが少なく、スタートの間隔が大きく空いていた。午前一一時五五分ころ、既に雨は降っていたが、本件パーティーが午後のラウンドを開始し、本件後続パーティーが午後のラウンドを開始した午後〇時〇二分ころ、遠くで雷鳴が聞こえていた。本件パーティーは、雨が大分強くなってきたが、六番ホールティーグラウンド付近の売店に立寄った後、六番ショートホールのティーショットを打った。そして、急に空が暗くなって、激しい雨となり、遠方で稲光が見えたとき、本件パーティーの三人が六番グリーン上におり、一人がグリーン手前の池の前からアプローチショットを打とうとするところであった。そのとき、本件後続パーティーは、六番ティーグラウンドに移動し、横の避難ベンチでしばらく本件パーティーがホールアウトするのを待っていた。その後、本件パーティーは、六番ホールを終え、七番ホールに向かう途中、豪雨となったので、プレーヤー同士でプレーの続行を断念することを決め、豪雨を避けるため松林の付近で傘を差したまま雨宿りをした。亡岸は、その前方でカートを引き、七番ホールに向け前進していたが、本件パーティーのメンバーが松林付近にいるのに気づき、カートを七番ホールティーグラウンド近くのカート道に置き、本件メンバーの方に戻り、カート道に立っていた。しばらくして、更に雨足が激しくなったため、本件メンバーは、松林内に移動し、車座になってしゃがみ、傘をさして雨宿りしていたところ、急に稲光とともに近くで一回目の落雷があり、しばらくしてクラブハウスから本件放送が流れた。しかし、本件メンバーは放送内容を正確に聞き取ることができなかったが、状況からして、避難勧告の放送であろうと判断し、車の迎えが来るものと思い、それを待つためその場に留まった。その後、傘をさしていては危ないということで傘を捨てたところ、近くで二回目の落雷があり、さらに、雷が本件松の木に落ち、本件松の木から一メートル以内にいた亡B、亡香取及び約一・五メートル離れたカート道にいた亡岸は側撃を受けてほぼ即死、本件松の木から二メートル以上離れたところにいた堀江及び一鍬田は下半身に火傷その他の傷害を負った。

なお、本件後続パーティーは六番ホールでのプレーを開始しようとした矢先に一回目の落雷があり、キャディー脇屋がプレーの中断を提案し、プレーを暫時見合わせるべく六番ティーグラウンド手前の売店に避難した。その後続の別パーティーも同売店に避難して来た。また、本件直前のパーティーは、五番ロングホールの残り一〇〇ヤード位のところで遠くで雷鳴が聞こえ、遠くに稲光が見えたため、六番ホールをホールアウトしたものの、プレーヤーの一人から恐いので中止しようとの提案があり、この時点で六番ティーグラウンド手前の売店に戻り、クラブハウスに連絡して迎えの車を呼び、高須はカートを引いて徒歩で、プレーヤーは迎えの車で、午後一時過ぎにそれぞれクラブハウスに戻った。

三  原告らは、被告には一回目の落雷前に、放送あるいはキャディー亡岸をして、プレーヤーの避難誘導をすべき注意義務あるいは安全配慮義務があり、被告は同義務に違反した旨主張する。

思うに、雷は不規則に落ちる上、雷雲の成長の程度によっても落雷状況は異なるので、落雷地点を局地的に予測するのは極めて困難であるが、本件ゴルフ場では、「落雷の危険が予想され、退避指示が出された場合は、プレーを中断して避難所等、安全と思われる場所に退避して下さい。」(一〇条六項)と記載したゴルフ場利用約款をプレーヤーに交付して、落雷の危険を一部引き受けているから、被告としては、落雷の危険が予想される場合にはプレーヤーに対して退避指示を出すべき注意義務あるいは信義則上の安全配慮義務を負うと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、<1>降雨、雷雲、雷鳴、稲光、周囲の明暗等の諸状況の変化によって雷の接近は誰にでもおおよそ判断することができ、かかる判断に特段の専門的、科学的知識を必要とするものでないこと(公知の事実)、<2>右状況の変化のうち、雷鳴や稲光ほど、大きな音や光を出すという点で、雷接近を知らせる正確な警報装置は他にはないといえること(公知の事実)、<3>佐伯は、午前一一時過ぎに得た雷情報によって、雷雲が龍ケ崎方面で発生し、右雷雲は本件ゴルフ場に接近していないとの認識を得たが、その後も、クラブハウスから外に出て雷の接近を気遣っていたところ、雷鳴は遠方で聞こえていたにすぎず、特に雷鳴が大きくなるとか稲光が接近するなどの状況の変化が起きたわけではなかったこと、<4>佐伯は、急に辺りが暗くなり激しい雨となったため、午後一時三〇分少し前ころ、当日二回目の雷情報の照会を電力会社にしたところ、下館市及び土浦市北方方面に午前中とは別の雷雲が発生中との情報を得、そこで発生した雷雲が本件ゴルフ場に移動してくることはまずないが、仮に移動してきた場合には、大きな落雷があることを心配し、しかも、降雨状況がますます激しくなるので雷接近の危険を感じ、退避指示を出そうとした途端、近くで一回目の落雷があり、停電となったが、直ぐに復旧したので本件放送を流し、その情報は亡Bにそれなりに伝達されたこと、<5>本件ゴルフ場から一キロメートルほど離れたサクラゴルフクラブでは、避難勧告放送すらしていなかったことなどを併せ考えると、一回目の落雷前に佐伯が落雷の危険を予測することはできなかったというべきであり、かつ、そのことについて何ら非難されるいわれはないし、また、右のとおり佐伯はとるべき措置を講じているから、被告には何ら注意義務違反あるいは信義則上の安全配慮義務違反は認められない。

もっとも、<1>本件ゴルフ場から二五キロメートルほど離れた習志野カントリークラブでは、当日、ゴルファー九二名参加の大会が開催されており、同大会を運営していたダンロップエンタープライズは気象会社の雷情報を基に午後〇時三〇分に大会を中断して、全選手に避難指示を出し、クラブハウスに収容していた(甲一二)が、これは大会運営者が判断したことであり、この判断が競技運営者とは自ずと立場の異なるゴルフ場経営者の判断に影響を与えるとは解し難いし、また、<2>本件直前のパーティーは、遠くで雷鳴が聞こえ、遠方に稲光が見え、小雨が降っていたにすぎない午後〇時三〇分ころの時点でプレーを中断し、午後一時過ぎにはクラブハウスに戻っていたが、これもプレーヤーの一人が雷鳴や稲光を特に怖がり、プレーを中止したという特別な事情があったのであるから、この一事でもって一回目の落雷前に佐伯が落雷の危険を予測することができたと認めることはできない。

加えて、<1>本件パーティー以外の後続パーティーは二つのパーティーともに六番ティーグラウンド手前の売店に自主的に避難していたこと、<2>亡Bらは、中学校の教員として生徒を引率して遠足等に行くこともあるから当然雷接近に関する一般的知識を有していたこと(証人堀江)、<3>本件パーティーの一人堀江は気象条件が段々と悪化していることを認識していたが、レインウェアーを着用しないで六番ホールまでプレーを続行するなど雷接近の危険を感じていなかったこと(証人堀江)にかんがみれば、その責任を被告に負担させるのは相当でないというべきである。

以上によれば、原告らの右主張は理由がない。

四  原告らは、一回目の落雷前に、被告の従業員(履行補助者)であるキャディー亡岸がプレーヤーを適切に避難誘導してその安全を確保すべき注意義務あるいは安全配慮義務があり、亡岸は同義務に違反した旨主張する。

しかしながら、キャディーは、プレーヤーのプレーに関する補助者であって、用具の運搬に従事し、プレーヤーの求めに応じて、目的とする地点までの距離やコースのレイアウトについて助言をするなどプレーについてプレイヤーにアドバイスをするものであり(証人佐伯、弁論の全趣旨)、ゴルフ場経営者の従業員あるいは履行補助者としてプレーヤーに危険が生ずるおそれがあるプレーが行われようとしているときにはその安全を確保すべき立場にあるが、雷の接近及び落雷の危険についてプレーヤー以上の専門的、科学的な知識を持ち合わせているべきものであるということはできないから、キャディーにプレーヤー以上に正確な落雷の危険を予測すべき義務を措定することはできない。そして、キャディー亡岸が一回目の落雷前に、落雷の危険をプレーヤー以上に正確に予測し得たことを認めるに足る的確な証拠もないので、原告らの右亡岸の避難誘導義務違反の主張は理由がない。

もっとも、亡Bは本件松の木の真下という危険な場所に避難し(乙四)、亡岸もその近くにいたが、同女が落雷の危険につき本件パーティーにアドバイスをした形跡は何らうかがえない。しかし、そのことから亡岸に避難誘導義務違反を問うことは相当ではない。けだし、<1>キャディーはプレイヤーのプレーに関し危険を除去すべき責務があるが、落雷からの避難方法に関し、キャディーにプレイヤー特に中学校教員以上の知識を要求することは相当でないこと、<2>亡Bらは中学校教師として、生徒を引率して遠足等に行くこともあるから、屋外における落雷からの避難方法に関する知識は一般人以上に有すると推測されること、<3>落雷からの最も安全な避難方法は、屋内又は車内への移動であり、そこへの移動が不可能あるいは次の落雷までに間に合わない場合には屋外で低い姿勢をとるべきであるが、もし高さが四メートル以上の木があるところならば、その木の根元から二ないし四メートル離れたところで、四五度の角度から木の頂点を見上げる位置内に避難すべきであり、四メートル以下の木には近づかないようにすべきであり、周囲を樹木に囲まれていて樹木から離れられない場合には枝先や葉から二メートル以上離れなければならないというものであること(乙四)、<4>亡Bらが本件松の木の近くに避難したことはそれが真下でなく、木の根元から二ないし四メートル離れるなどした場所ならば、必ずしも危険な避難場所ではなかったこと(甲一五)、<5>佐伯は高い木の真下へ避難することが落雷の被害に遭う危険が高いとの認識を有していなかったこと(証人佐伯)や亡岸は本件松の木から二ないし四メートル離れていたところに避難していたわけではなかったことなどからみて、亡岸に本件松の木の真下が危険な場所であるとの認識があったとはうかがわれず、また、そのことについては何ら非難されるいわれもないことなどにかんがみれば、亡岸に右避難誘導義務違反を問うことは相当でないからである。

また、亡岸は、佐伯の本件放送を聞いたのに、亡Bらを避難場所に誘導した形跡は何らうかがえない。しかし、そのことから亡岸に避難誘導義務違反を問うことも相当ではない。けだし、<1>高い木の近くに避難することは落雷に対する避難方法の一つであること(甲一五)、<2>佐伯は高い木の真下へ避難することが落雷の被害に遭う危険が高いとの認識を有していなかったこと(証人佐伯)や亡岸は本件松の木から二ないし四メートル離れていたところに避難していたわけではなかったことからみて、亡岸にそこが直ちに安全な場所へ退避しなければならないほど危険な場所であるとの認識があったとはうかがわれず、また、そのことについては何ら非難されるいわれもないこと、<3>本件落雷事故現場から六番ホールティーグラウンド付近の売店までは約二五八メートルであるところ、近くに落雷があり、辺りは暗く、しかも激しい豪雨があり、かつ、直ぐにクラブハウスからの迎えの車がカート道を通り収容してもらえることが十分に予想できるという状況下において、亡岸が亡Bらに対し、右売店への避難誘導すべきことを期待するのは酷であることなどにかんがみれば、亡岸の避難誘導義務違反を問うことは相当ではないからである。

五  原告らは、七番ティーグラウンド付近に避難設備を設置していなかったのは設置の瑕疵に当たる旨主張する。

しかしながら、<1>雷は一定の予兆を伴って次第に接近してくるのが一般であり、また、一度落雷があると一分間は充電期間があるので、その間に避難する余裕がある場合が多いこと、<2>実際のゴルフ場においても、各ホール毎に避難所が設置されているわけではないこと(乙四)、<3>本件落雷事故現場から六番ホールティーグラウンド付近の売店までは約二五八メートルの距離があり、その手前約八〇メートルの場所には避難ベンチがあること、<4>他の二つのパーティーは六番ティーグラウンド付近の売店に避難していることなどからすれば、各ホールごとに避難所を設置する必要があるとは到底考えられず、七番ティーグラウンド付近に避難設備を設置しなかったことがゴルフ場として通常有すべき安全性を欠いていたと評することはできない。

以上によれば、本件ゴルフ場には、土地の工作物の設置に瑕疵がないというべきであり、この点に関する原告らの主張は理由がない。

六  そうすると、その余について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 都築弘 裁判官 土田昭彦 裁判官 福渡裕貴)

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